いつも拝見しています。私は素粒子物理の研究者ですが、3点コメントしたいと思います。
まず第一に、南部さんの受賞対象の研究は40-50年前のものであり、現在とは研究環境が大幅に異なるという点です。当時は日本にはまともな研究環境(理論だからといって一人でこつこつ研究すれば成果が上がるというものではないのです)はなく、各種奨学金をもらって欧米で研究するのは一般的であり、戻ってきて日本で研究分野の基礎を築いた人もいれば、海外で優秀な成果を上げた人(例えばボトムクォークを発見した元フェルミ加速器研究所副所長の山之内さんなど)もいるわけで、当時はむしろ研究者を輸出することが奨励されていた節もあります。
第二に、すでに研究分野によっては日本の研究やアメリカの研究と分ける意味がなくなってきている、つまりボーダーレス化が起きているのです。ニュートリノ質量がスーパーカミオカンデで発見されたときに、クリントン大統領がアメリカの(金と人を出した)研究であると紹介したように、数カ国が共同研究したり海外の研究施設で研究したりするのはどの分野でもごく普通になってくるでしょう。例えば私が5年アメリカの研究所で研究したらそれはアメリカの研究でしょうか?日本のとある素粒子実験は研究者の6割が欧米人ですが、彼らの研究はどこの研究になるのでしょうか?小学生でも留学できる時代に、どこの国の研究とか何人の研究であるとかを区別するのは難しくなってきています。
第三に、現在日本の頭脳流出というのはここでいわれている意味では、実際はほとんど起きていないということです。今回南部さんがたまたま米国籍であったので海外流出しているのではと早合点された方も多いのだと思うのですが、日本国籍生まれで海外の大学の現職教授の名前を10名挙げられる人はあまりいないでしょう。そのくらい実態は世間に知られていないですし、これは笑うところですが、益川さんは海外に行ったことすらほとんどありません、というのは南部さんと合わせて言及しないとフェアではないでしょう。
頭脳の海外流出という言葉に対する反応は、日本企業が海外企業・ファンドに買収された時のような、たまにしか起きないことに対する感情的な反応に過ぎないように感じられます。
これは余談ですが、優れた研究であれば、世界の一番端っこにある日本にも欧米の研究者は大挙して来てくれます。このあたりも考えて、頭脳流出が何を意味するのかを技術移転などと合わせて評価する必要があるかもしれません。
基礎研究って日本の比較優位分野なのかなぁ? - BI@K accelerated: hatena annex, bewaad.com
素粒子物理は(特に実験は)他の分野と比べても特殊だと言うのは念頭に置いた方がいいとも思う。実験はものすごく金を食うから国際共同研究にしないとやってけないし、理論は世界中とやりあわないと先端理論との整合性が保てない。
そういうカルチャーなので逆に日本でも大学を移るという事に大してあまり抵抗感が無く、派閥みたいなものが存在しにくいと先輩や教授に聞いたこともある(もちろんコネはあるし大事)。問題があるとすれば、今の日本の大学では「ポストが無いから海外に行く」という人が少なからずいることじゃないかな。
(via otsune)